透明境界線

生きていく。詩を書く。

某人物の遺書から一部抜粋

朽ち果てたエケベリアのすがた
(灰色に縮こまっていた)
一部が折れたセダムのすがた
(可哀想に背だけが伸びていた)
安物の黒いスウェットは裏起毛がなく
(暖かな長袖を肌着の上に仕込み)
街へ出かける日は腐った面持ちで行けず笑顔で
(それは強制である)

・向かいの大家の柿をたべたい
・盗人だと呼ばれおこられたい
・高級なライダースブルゾンをきたい
・足を上手に軽々とうごかしたい
・節約の達人の主婦になりたい

わたしのからだが彷徨わないように
内臓をスコップで深く掘ってゆき
そこに新しい植物を植え付けて
わたしの分身となる命の芽を
たいせつに育ててください
そうすればあんな欲望も
魂ごと報われることと
わたしは信じられる
あなたたちもそう
信じてください
そろそろ眠り
静かに目を
閉じます
(end.)