透明境界線

生きていく。詩を書く。

愛の膜

かなしいと感じるのは
かなしいからだ
むなしいと感じるのは
むなしいからだ
いま
空気中に
大勢の人々の吸う
たばこの煙が篭っている
窓の方へ視線を移すと
灰色のビルの群れが無言で
ただ建っているだけ

誰かへの愛情の膜が薄れてゆき
違う誰かさんからの愛を求めても
くだらないことだと
分かっていながら

貴女が好きだ貴女が好きだ
いい歳して恋をしていた
だめよ、と
言われ続けても
だめだ、と
充分に理解していながら

かなしいと感じるのは
かなしいからだ
むなしいと感じるのは
むなしいからだ

愛情の膜に包まれて
幸福が生まれて
ふたりで深いところへ眠りに就いた
翌朝目覚めたとき
そこにはたばこの煙も窓辺も一切なく
膜は
誰かさんに
剥ぎ取られていた