透明境界線

日常の感情の肯定。詩を置く場所。

永遠の別れについて

母を亡くしてから
ひとりきりでいるのが居た堪れなくなった
母を亡くしてから
過去を思い悩むようになった
過干渉と無関心にされたことは
とっくのとうに
許した
ただ わたしのなかにできた
ぽっかり大きな空洞は
誰にも埋められない
自分で埋めることすら

求めていたのは大きな愛
逃げたいとき駆け込めることのできる抱擁
母にはそれができなかった
不器用だったのかそれとも
わたしに呆れていたからか

こういった嘆きを
いない母に言えるはずがない
ほんとうに愛されていたのか
確かめることができない

喫茶店にいるのに
手がきんきんに冷えて今にも
凍る

春は母の季節
三年目はまた
物思いに耽ける時間が伸びる
永遠の別れがあることを
わたしはずっとずっと前まで
知らなかった

愛の膜

かなしいと感じるのは
かなしいからだ
むなしいと感じるのは
むなしいからだ
いま
空気中に
大勢の人々の吸う
たばこの煙が篭っている
窓の方へ視線を移すと
灰色のビルの群れが無言で
ただ建っているだけ

誰かへの愛情の膜が薄れてゆき
違う誰かさんからの愛を求めても
くだらないことだと
分かっていながら

貴女が好きだ貴女が好きだ
いい歳して恋をしていた
だめよ、と
言われ続けても
だめだ、と
充分に理解していながら

かなしいと感じるのは
かなしいからだ
むなしいと感じるのは
むなしいからだ

愛情の膜に包まれて
幸福が生まれて
ふたりで深いところへ眠りに就いた
翌朝目覚めたとき
そこにはたばこの煙も窓辺も一切なく
膜は
誰かさんに
剥ぎ取られていた